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HACCP(食品安全)

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解説編

食品安全とHACCP
 (1)「食品安全」が法律になります 

 (2)「食品安全」とは何か?

 (3)危害要因(ハザード)とHACCP(ハサップ)計画

 (4)危害要因を引き寄せる4つのM

 (5)PRPとCCP

 (6)記録(証拠)

 (7)科学的根拠と検証

 

長文記事編

 1.日本人の特性と食品安全

 2.世界的で普及しているHACCP

 3.たくさんあって、ややこしい「HACCP」

 4.HACCPとはどんな形をしているのか?

 5.HACCPは土台の上に立っている

 6.ルーズHACCPから始める!

 

 

 

 

 

 

 

 

食品安全とHACCP(ハサップ)

HACCPについて簡単に解説します。研修や講義では事例を交えて繋がったストーリーとして解説しますが、ここではダイジェスト版として、部分的に解説を飛ばして掲載しておきます。是非とも研修にご参加いただくようにお願いいたします(受講生の声)。

※解説は途中で切り上げておりますが、適宜、続きの解説文章も追記していきます。

 

(1)「食品安全」が法律になります

現在、先進国を中心に世界で普及している食品安全の考え方としてHACCP(ハサップ)というものがあります。厚生労働省は2020年の第2回 東京オリンピックまでに、「食に携わる全ての事業者」に対して法律として食品安全を制度化することを考えています。その方策の軸になっているのが、HACCP(ハサップ)という考え方です。

「食に少しでも関する事業者」であれば、この法律から逃れられることはできません。食品を作ったり、加工したりするだけでなく、販売したり、運んだり、短期間だけ預かるだけの仕事をしている事業所なども例外なく対象となります。

ここで重要なのは、過去数年内に食中毒や異物混入を起こしていない事業者であれば、「今のやり方は大きく間違っているわけではない」と自信を持つことです。高額な最新鋭の機械を購入したり、専門の従業員を新たに雇うことが先決なのではなく、食品事故が起こった過去の事例と、今のやり方を比較して、弱い部分を補強していくことから始めれば良いのです。

もし、数年内に何らかの食品事故を起こしているのであれば、再発していないないか、または、再発は困難だと言える対策をどの様に講じているのかを確認してください。

まずは、現状の確認と把握から始め、自信をもって良いところは自信を持ちましょう。
そして、初めて作るHACCP計画は、初めてなのですから格好悪い、穴だらけのものであっても構わないと私は考えます。格好の良いものを作ることに気を取られて時間が掛かってしまうことや、途中で脱線してしまっていつまで経っても完成しない方が大問題です。HACCPは(認証を)取るものではなく実践するものです。格好の悪いルーズなHACCP計画を素早く作り上げ、これを何度も見直して、バージョンを上げて格好良い形に仕上げたり、そのように修正できる力のある従業員を育てる方が、私は大事だと考えます。

※制度化については不確定な情報も含めて色々ありますが、ここに掲載するには不適切であるため、割愛します。

 

 

(2)「食品安全」とは何か?

食品安全とは、どういう意味でしょうか?
極めて端的に言うと「喫食者が体調を崩したり、死んだりしない」ということです。
 ※喫食者:食品を食べた人

つまり、食品を食べた人が、

 ・お腹を壊して、下痢をする、痛い思いをする、入院する、後遺症が残ってしまう、死んでしまう。
 ・食品の中に入っていた硬い異物で、口の中や食堂を切って傷つく、胃や腸などの内臓を切ったことで
  入院する、後遺症が残ってしまう、死んでしまう。
 ・食品に含まれていた化学物質で体調を崩す、入院する、後遺症が残ってしまう、死んでしまう。

という状況になることが「食品安全が守られていない状態」です。

 

 

(3)危害要因(ハザード)とHACCP(ハサップ)計画

上に挙げた「喫食者が体調を壊すこと」を危害と言い、その危害を引き起こす原因のことを危害要因(ハザード)と言います。
 ※当HPでは、Hazard(ハザード)のことを「危害要因」として定義します。

危害要因は多種多様ですが、大きく分けて3つの系統に分けて捉えます。この3つの視線で全工程を評価し、どこでどの様な不安要素(危害要因)が入り込んでくるのかを評価検討します。これをハザード分析と云います。

①「お腹を壊す」という危害を引き起こす微生物系の危害要因(ハザード)
 → 細菌、ウイルス、カビ(の毒素・・・総称マイコトキシン)、など
  (具体例)ノロウイルス、カンピロバクター、ウェルシュ菌、病原性大腸菌(O-157)など

②「口の中、胃腸を切る」という危害を引き起こす硬質異物の危害要因(ハザード)
 → ガラス片、鉄片、プラスチック片、小石、などの硬質異物、など
  (具体例)蛍光灯の破片、破損した刃物片、包装資材の破損破片、原料付着の石、設備の落下片

③「体調を崩す」という危害を引き起こす化学物質の危害要因(ハザード)
 → アレルギー食品、化学物質、抗生物質、化学合成洗剤、など
   ※アレルギー体質の人は、目に見えない極微量でも口に入ると死んでしまう可能性があります
  (具体例)アレルギー原料(表示義務7品目:卵、乳、そば、小麦、エビ、カニ、落花生、+推奨20品目)
       腐敗菌などが作り出す化学物質、牛や豚、鶏に摂取させた抗生物質の残存、
       化学合成洗剤の洗い残し、
使用基準を超えた食品添加物

つまり、これらの危害要因を食品から遠ざけるようにすれば、「食品安全を保証できる」と考えることができるので、単純に、製造工程の中に「微生物」「硬質異物」「化学物質」のどれも入らないように管理することがHACCP(ハサップ)計画であるとも云えます。

 

 

(4)危害要因を引き寄せる4つのM

危害要因を引き寄せる原因(危害要因の要因)としては、簡単に考えれば次の4つが代表的です。

 ① an        従業員、お客様、原料メーカーの従業員など

 ② achine     設備機械、包丁、まな板、トング、タオルなど

 ③ aterial      原料(野菜、肉、加工済み食品など)、調味料、包装資材など

 ④ ethod      手順やルール(作業手順、洗浄手順、入室手順など)

 

実例を含めた具体例としては、

 ① an       従業員のピアスが落ちて製品に混入する
              お客様がノロウイルスを店内に持ち込む
              原料メーカーの従業員がO-157を原料に感染させる

 ② achine    まな板の洗浄殺菌が不充分なためにカンピロバクターに汚染されたままである
              1つのトングで何でも原料を取り分けるので、アレルギー原料の交差汚染が起きる
              刃物管理のできていない包丁を使ったために、切断時に刃物片が混入する

 ③ aterial     カンピロバクターに汚染された鶏肉
              抗生物質が残存している豚肉
              カビが発生している磨り潰す前の香辛料原体

 ④ ethod     加熱殺菌したあとのスープを急冷せずに放冷して微生物が増殖する
              早く帰りたいので勝手に洗浄手順を簡略化したために機械が微生物汚染してしまう
              作業服を着てから帽子をかぶったので、作業服に毛髪が付いている

などが挙げられます。 職場のルールや作業手順のルールを決めて周知させるだけで、ある程度の効果がすぐに出そうだと思いませんか?

 

 

(5)PRPとCCP

 食品安全の目的は、「喫食者が体調を崩さない、死なない」ということの実現です。

 ですので、製造工程に「危害要因(ハザード)」を近づけないようにしなければなりません。

 そのためには、危害要因の要因である「4つのM」をしっかりと管理しなければなりません。

では、どうやって4つのMを管理すればよいのでしょうか?

 

日本人は手順やルールを作るのが得意ですが、紙に書き留めたマニュアルを作るのは苦手です。そのために、敢えて紙に書いて教えなくても、見て学ぶ、見て盗む、何度も経験して体で覚える、という「暗黙知のルール」によって作業管理をしているケースが多々あります。

そして、気を抜くとマズイところ、失敗してしまうところ、は非常に注意してよく見て作ります。

しかし、このやり方では、

 ・きちんとできるようになるまでに時間が掛かる。
 ・本当に理解してきちんと出来ているかどうかは本人任せ。
 ・製品が出来てみないと良いか悪いかの判断ができるとは限らない。

という欠点があります。まるで一か八かの博打の勝負のようなものです。

そこで、HACCPの考え方では、

 ① 職場のルールで解決できるところは、そのルールを徹底して実践する

 ② ルールを作って管理し、達人が担当したとしても、もし失敗すると喫食者が体調を崩すことに
   なってしまうかも知れない危険性のあるところは、失敗しないように徹底的に見て監視する

という2つに分けて考えます。

①のことをPRP(Pre-Requisite Program)と云い、「前提条件プログラム」や「一般衛生管理」などと呼ばれます。

一方、②のことをCCP(Critical Control Point)と云い、「必須管理点」と呼びます。
 ※当HPでは、CCPのことを「必須管理点」と定義します

どちらであっても、どんな時でも頼りになるマニュアル(形式知化した文書)がないと作業の実践も人財教育もできませんし、どこまで理解しているかのレベル付けを評価するヒントにもなりません。

国際的な認証を取得するのなら、分厚いマニュアルの方が良いでしょうが、まずHACCPを確実に実践することを目的とするなら、写真を多用した絵本のようなA4用紙1枚のマニュアルでも構わないはずです。 目的は従業員の頭に叩き込むことですので。手書きでも構わないと私は考えます。体裁を整えるのは後からでも充分です。

 

 

(6)記録(証拠)

HACCPは米国で生まれた考え方です。その本場の米国では、「証拠(エビデンス)がないのは、何も管理していなかったのと同じ」と言われます。

当然と言えば当然の話です。食中毒事故が発生してA社とB社の2つの原料メーカーが疑われたとき、キチンと製造していたという記録(証拠)が残っているA社と、「記録(証拠)はないけどキチンと作っていた。私たちを信じてくれ!」というB社があれば、A社はキチンと作っていそうに感じますし、「もしかするとB社はキチンとしていなかったことを隠しているかもしれない!」「B社はキチンとしていない会社かも知れない」などと疑われてしまいかねません。

少なくとも、取引先や消費者から信頼を得やすく、疑われたとしても短期間で疑いが晴れ、事業活動に影響が少ないのはキチンとした記録(証拠)がある方だと思います。

特にCCP(必須管理点:失敗すると喫食者が体調を崩したり、死んだりするかもしれない重要なところ)はキッチリと監視して見なくてはならないので、抜けのない証拠(記録)作りが必要です。未記入がたくさんある、あとで数日間まとめて記入するつもり、というのでは通用しません。

今まで経験と勘を重視し、(自分たちではあまり振り返って見る機会の少ない)記録は軽んじられてきましたが、食品安全を考えると「証拠」の重要性を分かって頂けるでしょうか?

そして、(5)に出てきた2つの管理方法を考えると、PRPよりもCCPは管理が面倒で人手も時間も掛かり、記録もキチンとしなければなりません。企業経営を考えると、CCPとしてキチンと管理するのは必要最低限の数にして、それ以外のことはできるだけPRP(前提条件プログラム)で対応できることを目指す方が良さそうです。

つまり、食品安全を達成するという目的を達成するためには、PRPを緻密に実践する方がラクでもあり、食品安全を脅かしてしまうような可能性は低くなるのです。「汚い工場(店)よりもキレイな工場(店)」、「ルールの緩い工場(店)よりもルールがあって心地よい緊張感もある工場(店)」の方が良さそうです。前提条件プログラムという会社のルール(掟)で管理できることは管理しておくことが良い工場(店)作りの前提条件ですよね。

なお、自分たちでCCPを減らしてPRPに振り替えたとしても、取引先や消費者から「CCPとして厳重管理しないこと」に不信感を持たれては本末転倒です。HACCP計画の作成後、実際に運用していくと計画の修正や強化すべき箇所が見えて来ます。そして、これに対応していくと、どんどん最適な形に納まってきます。HACCPは認証を取るものではなく実践するものですので、何度も計画を見直して、より良いものにしていくことが求められます。

 

 

(7)科学的根拠と検証

漢字がたくさん並んだタイトルになりましたが、要するに、HACCP計画を作るときに考えた判断の基準は、勘や経験則ではなく、裏付けのある確かな根拠によって決めなければ他の人からは信用されませんよ、ということです。
HACCP計画は食品安全を達成することが目標ですが、実際には取引先や消費者に安心してもらうことが目先の目的となります。

例えば、CCPで管理することを決めた加熱工程の場合を考えます。

この製品は、調達した原料に病原性微生物が元々入っている可能性が高く、作業中でも混入してくる可能性があり、僅かながらに増殖して増えるかも知れない製品なのですが、密封包装のあとの加熱工程で殺菌することが可能です。
殺菌後に急速冷却機で急冷させ、冷蔵庫(10℃以下)で保管したのち、チルド流通(5℃以下)で出荷するので、殺菌後の商品に芽胞(※)があっても、消費者が購入する時までは病原性微生物が喫食者の体調を崩すほど増殖している可能性は低いと考えられます。

※芽胞:ボツリヌス菌のように一部の菌は、環境が生息に適さないものになると、芽胞と云う菌の卵のような
   形に変形するタイプの菌がいます。この芽胞は、100℃の温度に晒されても、水がない環境であって
   も生き延びることができ、環境が生息に適したものになれば菌の形に戻って活動を再開します。

この様なHACCP計画であれば、加熱工程で殺菌することで芽胞以外の微生物を死滅させることができ、その後の冷温管理で菌の増殖は抑制できるので、微生物的な危害要因だけを見たとき、商品の食品安全は保証できそうです。

しかし、何℃で何分間加熱すれば、芽胞以外の菌を殺菌できるのでしょうか?

「いつもだいたいこれくらいだ!」
「昔から○℃で○分やっていて問題が起きたことはない」

というのでは、誰もその加熱殺菌条件に納得してくれません。勘と経験則によるものだけでは信頼できないのです

混入している可能性のある微生物ごとに「何℃で何分間、加熱すれば死滅する」という条件を「科学的に信頼のできるデータ」から全ての菌に対して調べなければなりません。
入手したい「科学的に信頼のできるデータ」というのは、混入している可能性のある全ての菌で温度と時間を変化させたときの死滅するデータです。問題は、それをどこから探して調べてくるかです。推奨する引用元としては、「厚生労働省のホームページに掲載されている文書」、同じく「農林水産省」「内閣府食品安全員会」、他にも「財団法人食品産業センター」、「各地域の保健所」などが適しており、印刷刊行物としては、「広く一般的に使われている専門書」や「微生物や食品安全のエキスパートである大学教授の方々が執筆された論文」などがこれにあてはまります。政府が保証するものであったり、著名な専門家が執筆した文章から引用すれば、「○℃で○分間殺菌する」という殺菌条件を第三者が聞いても、政府や専門家のお墨付きであるとして納得してくれます。
※間違っても、文章の内容が保証されない「wikipedia」「個人のブログ」などから引用してはいけません。

この様にして設定した殺菌条件は許容限界(CL:Critical Limit)と云います。例えばこの加熱工程の許容限界(CL)が「80℃で20分間」であれば、これを1℃でも1秒でも足りなければ菌が残存し、喫食者に健康被害が出るかも知れません。そうなれば、この条件で実際に加熱殺菌すると、許容限界を超えた不適合品がたくさんできてしまう可能性が高くなります。ですので、実際の加熱殺菌では少しキツイ条件である「83℃で22分間」などに設定して手順書に定め、簡単には許容限界を超えないようにします。
※当HPではCL(Critical Limit)を許容限界と呼びますが、厚生労働省ではこれを管理基準と呼びます。
※文献から80℃で20分間というデータの導き方、CCPの監視方法である「モニタリング条件」、
許容限界を超えて不適合品となったときの行動を予め決めておく「是正措置」は解説を割愛します。

HACCP計画を作成した担当者達は、この計画が本当に正しいのかという不安に襲われることがあります。発生してもいない不安要素を想定し、そのリスク管理を決めることはとても責任重大だからです。HACCP計画を作るときに判断した根拠は、科学的な裏付けされたものなのかどうかが気になります。これはまた、取引先や消費者も同じ思いです。この事業所は信頼できるのだろうかと考えます。また、決めた計画が、そのまま実践されているかも気になります(私は昔、勝手に作業手順を省かれていた経験があります)。この様に、HACCP計画自体を検証し、修正・強化する作業が非常に重要です。できれば、年に数回は行いたいところです。

最初に作るHACCP計画は、貧弱で穴だらけであっても構わないと私は考えています。むしろ、格好の良いものを作ろうとして時間を掛けすぎるよりは、食品事故の起きていない今のやり方をベースにして足らない所を強化し、見直しを何度もする方が計画も担当者達の能力も向上すると考えております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1.日本人の特性と食品安全

厚生労働省は2020年の第2回東京オリンピックまでに食にまつわる全ての事業者に対して、食品安全の考え方であるHACCP(ハサップ)を法律として制度化することを考えています。これにより、食品を食べた人の健康を決して害さないような作り方や管理をすることを食にまつわる全ての事業者に求めるというものです。工場や食堂であれば保健所で5~6年ごとに営業免許を更新しているはずです。その更新時に従来の書類に加えて、食品安全に関する書類を添えて提出するようになるようです。現時点ではどのような書式になるのかは確定しておりませんし、詳しいガイドラインも出ておりませんが、その様な形式に変わります。営業免許を持たない事業者は適用を逃れるのかというと、そうではありません。営業免許の有無に関わらず、何らかの形で食品安全に関わる書類を保健所などの行政に提出しなければならなくなります。

日本の食品企業でも、大手企業を中心に「ISO22000」や「FSSC22000」「JFS-E-C」などの認証取得が普及しておりますが、中小企業では食品安全への取り組みが充分ではないのが現状です。2015年末時点でのHACCPの普及率は、大手企業が9割以上であるのに対し、中小企業は3割程度に留まっています。

日本では食品事故の発覚件数(≠発生件数)は少なく、恐らく世界のトップクラスであることに間違いないと私は考えています。「生魚を食べる」「生卵を食べる」「水道水をそのまま飲む」など、ごく普通の日本の食生活において ”消費者の手元に届くまでの衛生管理レベル” は、他国と比較すると明らかに高いと思います。確かに他の先進国でも人口の多い首都や都心では同じようなレベルでしょう。では、地方都市ではどうでしょうか? 恐らく、「生魚・生卵・生水」を口にすることは通常では考えられない行為と思われるかも知れません。しかし日本では、人口が少なく、携帯電話の電話が入りにくいような地域であっても、そこで手に入れた「生魚・生卵・生水」を口にしたところで致命的なことにはならないと思います。
これらは、明治維新よりも前から存在している「江戸前の寿司」などでも分かるように、古くから固有する日本人の几帳面で、且つ、研究熱心な特性に起因していると思われ、衛生管理の水準は他国を圧倒していと思います。

この傾向はガラスや石のような硬質異物の混入や、農薬や抗生物質などの化学物質の混入についても同様です。「お客様は神様です」というフレーズの影響もあり、多くの大手企業では製造工程が高度に管理され、昭和後期には世界でも突出した「食の安全神話」が生まれました。もし、何らかの「異常」があれば直ぐにお客様相談室にお申し出が寄せられ、改善・改良が施されて、さらに高度な製造管理がなされるようになっていきました。もちろん、調達管理や商品開発にもフィードバックされて正のスパイラルが廻っていきました。
中国や欧米では、髪の毛の混入でメディアが報道することはないそうですが、日本では毛髪一本の混入も許されないのです。それは、そのレベルがごくありふれた日常的なレベルだと皆が期待しているからです。

※携帯電話や家電製品の業界では、近年、顧客対応の世界標準化(≠お客様は神様)が進んでいるように思われます。しかし、食品業界では、まだしばらくは「ガラパゴス状態」が続くと思われます。

そのため、日本では、「敢えて食品安全に取り組まなくても、ごく普通の常識を全従業員が徹底していれば普通に達成できる」という意識があります。この意識は幾つかあるHACCP普及の阻害要因の1つだと考えられます。

 ・過去に食中毒を発生させたことがないから必要がない
 ・資金がないから高額な設備投資はできない
 ・高度な管理体制を構築できるような優秀な担当者がいない
 ・改善している時間がない
 ・そもそも、従業員数に余裕がない

などの理由により、大企業以外では食品安全の普及が進みにくかったものと思われます。

実際、日本では食の安全の欠陥で致命的な状態になったという件数は多いとは言えないように思います。交通事故で死んだり普通の日常生活が出来なくなった知人は居ても、食品を食べたことでそうなったというのは、あまり耳にしません(因果関係に気付いていないケースは除きます)。それほど問題になっていない日本で、食品安全を法律として制度化するのは、こうした事例によるものとは違う要素が原因になっていると考えて間違いないと思います。
 ※日本での食中毒発生事例のデータは、厚生労働省のデータをまとめ、当HPに掲載しております。

 

 

 

 

2.世界で普及しているHACCP

日本が古来からの経験則をベースとした衛生管理を行っている間に、先進国は当然として、発展途上国と呼ばれていた東南アジアを含むアジア諸国でもHACCPが義務化されていきました(商品カテゴリーは肉や魚などに限定)。そして、民間取引では製造メーカー側に食品安全を証明するためのHACCPが求められ、普及していきました。大手メーカーを中心にHACCP計画の科学的妥当性を立証するため、第三者が見ても納得できるものとして、ISO22000やFSSC22000の国際認証システムが普及しています。

そもそも、HACCPは米国の宇宙開発事業の中で作られた食品の製造工程管理プログラムです。宇宙飛行士が食事を起因とした体調不良を起こさないようにと考えられたものを一般食品向けに改編したものです。米国では低酸性缶詰食品の食中毒事件や、大手ハンバーガーチェーンでのO-157事故などを発端とし、宇宙開発業界で実績を上げていた宇宙食の製造工程管理プログラムにフォーカスが当たりました。これがやがてHACCPと呼ばれるものに発展し、米国内で普及されました。

科学的な根拠に基づいて製造工程を管理し、エビデンスを残すという手法は確実に成果を残していきました。その実績を認めた米国は、米国内で流通する食品に対してHACCPを奨励するようになり、米国内でも低酸性缶詰食品、食肉食鳥肉類、ジュース類、水産食品などに対してHACCPを義務化し、昨年2016年9月19日からは米国内を流通する全ての食品に義務化を施すというFSMAという法律のスタートにつながりました。

米国発信で世界的にHACCPが広まっていった1990年以降、日本でもこれに追随する動きがあり、厚生労働省から総合衛生管理製造過程認証制度(≒日本版HACCP)が施行され、1998年から認証取得施設の登録が始まりました。
しかし、複雑さ、高度な要求、限定された製造品目(当初は品目拡大する予定)などもあり、広く普及することはありませんでした。特に、2000年に認証施設で非常に大規模な食中毒事件が起きてからは認証申請数が減るだけでなく、認証返上数も増え、その後は普及することはありませんでした(今回のHACCP制度化で実質上、発展的解消される予定です)。

その後、日本ではHACCPの普及に対する大きな動きは20年近くありませんでしたが、今回は本気で制度化による普及を考えています。
法律を作る厚生労働省だけでなく、食品企業の国内外での発展を支援する農林水産省も今回の制度化を非常に強く支援しています。

しかし、財力も人財も豊富で事業所の9割以上に普及している大企業はともかく、財力も人財も豊富ではないことが多い大多数の中小零細企業にまで確実に普及させることが容易ではないことが明らかです。特に街の食堂など、飲食店にとってHACCPが制度化されるというのは寝耳に水の状態で、未だに食品工場だけの問題で、自分たちには関係がないと捉えている事業主の方が多いのが実情です。

表.企業規模別のデータ(全産業)

 全事業所における占有率
[%]
全雇用者における占有率
[%]
事業所あたりの平均従業員数
[人]
大企業0.3301,289
中小企業14.64760
小規模85.1233

・       ※中小企業には小規模は含まれておりません。
        企業規模の定義など、その他の詳細は「中小企業庁 中小企業の企業数・事業所数」をご覧ください。

 

 

 

 

3.たくさんあって、ややこしい「HACCP」

では、今からHACCPを実践しなくてはならない事業所は、何から取り掛かれば良いのでしょうか?

大手流通やCVSなどに納品している食品工場であれば、“取引先から要求されている食品安全を実践する”のが早道ですが、明確にこうしたものを要求されていない事業所の場合や、街の食堂などの場合は、

 ・自治体HACCPや、自治体の入門版HACCPを実践する
 ・業界HACCPを実践する
 ・独自にHACCPを実践する(厚労省や食品産業センターなどで公開されているガイドライン等を参考にする)
 ・「ISO22000」や「FSSC22000」などの国際認証を取得する

などの選択肢が考えられますが、実際には知識と経験、経験者の支援がなければ、見たことも聞いたこともなく、どんな形かすら分からない「横文字のHACCP」の実践など簡単なはずがありません。
・     ※実際、HACCPの研修講師をしていると、「知っている」「経験者です」という受講生の方でも、
・      基本的な考え方を知らなかったということが多々あります。

最も注意しなければならないのは、都道府県が推奨・認証している「自治体HACCP」や業界が推奨・支援している「業界HACCP」、「ISO22000やFSSC22000」は、厚生労働省が制度化しているHACCPとは別物であるということです。とても混乱しやすいのですが、HACCPという名前がつけば全て統一されたものであると思いがちですが、実際には、それぞれ中身は異なります。
但し、国際規格である「ISOやFSSC」なら

自治体や業界のHACCPを実践することができていたとしても、(現時点では)それぞれ個別にレベル差があるため、厚生労働省が求める内容を満たしている部分もあれば、そうではない部分もあります。よって、不足している部分があるときは、新たに構築していかなければなりません。

新しい選択肢として、2016年1月に農林水産省が後援して設立された「一般財団法人 食品安全マネジメント協会(略称:JFSM)」があります。JFSMでは、食品安全を実践するために「3つにレベル分けされた規格」が準備されています。

 ・A規格  食品安全の基本となる「衛生基準の達成」を目指すレベル
 ・B規格  厚生労働省が目指す「コーデックスHACCPに準じた食品安全」を目指すレベル
 ・C規格  国際的な第三者認証を想定した「高度な食品安全マネジメントシステム」を目指すレベル
       ※C規格は日本「発」の食品安全の国際規格として大いに注目を浴び、期待されています。

事業所独自でHACCPを実践する場合は、当HPのセミナーの案内をご検討ください。コンサルなどの外部支援を使わずに独自に実践する事業所の方も多く参加されていますし、セミナー後のフォローアップ会もございますので、ご活用ください。

 

 

4.HACCPとはどんな形をしているのか?

日本は食品安全レベルの高い国であることに間違いなく、実際に発生している件数は海外よりも少ないことでしょう。しかし、「確実さ」に欠ける部分があるのです。つまり、食品事故が起こっていないのは、「高度に管理されて発生しないように管理されている場合」もあれば、「たまたま、発生していないだけの場合」というものがあるということで、ここでいう「確実さの欠如」とは、食品安全のレベルが後者であるということです。逆に言えば、もう少し気をつける、知識をつける、確実に実践できる習慣をつける、ということにより確実性の向上が期待できるということです。

誰しもが一度は経験していると思いうのですが、「ちゃんと言っておいたから、その通りにやってくれているはずだ」「あの人ならちゃんとやっているはずだ」できている筈だ伝えたから」日本人は「空気を読む」ことを奨励し、他にも「他人から笑われるような恥ずかしいことはしない」という考え方を好みます。

り、「ある程度はあっているが完全ではない」といういみをです。つまり、ここでいう「確実さの欠如」というのは、担当者は「高度に管理して絶対に喫食者が体調を崩したり、死んだりしないように起きないようにすること」されて絶対に起きない状態にすることえ地内だけはこの欠けている部分をいかに確実に、個人の思い込みではなく誰が聞いても納得する「科学的妥当性」を使って無くしていくかが課題となります。

古き良き日本式の作業の多くは「暗黙知」(わざわざ口にしたり書いたりしなくても分かっている)ことが多いのが実状です。これを誰でも同じことができるように、作業内容を文書にまとめるという「形式知」にし、実際にできるかどうかの確認や人財教育をするというマネジメントをすぐに同じことができるようにすることが理想的です。

自社製品で食品安全を脅かす問題が発生した時、原因の究明や被害状況の把握、被害拡散の阻止等を行う、または、自社の潔白を証明するためには、自社の製造状況を第三者にも明らかにできるレベルでの実態把握(証拠)を残すことが求められます。

それには、製造状況を証明する書類の作成や記入の習慣化、マニュアルの整備が必要となります。
これらを実行するには、そもそも、工程のどこに食品安全を脅かす要因が潜んでいるのかを見つけることができなければならず、見つけた要因は誰が聞いても納得するように科学的な根拠に基づいて分析する必要があるのです。

食品安全を脅かすその要素を自社でコントロールする方法を決め、如何にして逸脱しないか(ヘマをしないか)を決定します。ところが、その方法が誤っていると意味がありませんので、本当にそのコントロール方法が正しいかどうかを検討する必要が出てきます。また、ヘマをした時にどうするのか?・・・。捨てるのか、何らかの処理をするのか、なども決めなくてはなりません。これが表面に見えている部分のHACCPの概要です。

 
 
 

5.HACCPは土台の上に立っている

こうして作られるHACCPを実践するには、表面に見えない裏方の整備が必要です。

この裏方は住宅で言えば、まさに基礎工事に相当します。
強固であるほど基礎の上に乗っかるHACCPの管理が、正確かつ迅速でキメ細かく実践できるようになります。

ところが、その中身は手を洗うことや設備を洗浄するなど、つまらなく思えることばかりです。

「そんなことはできてるよ!」という話を耳にすることもありますが、大きな事故の原因が実は些細なことであることが珍しく無いように思います。過去の食品安全事故においても、日常的に見慣れた当たり前のことが欠陥になっていた、ということはなかったでしょうか。

土台の整備は、こんな当たり前のことに始まり、当たり前のことで終わります。しかし、その深さはとても深いのです。だから、どこまで徹底するかは自社で決めるのです。

つまり、7S(整理・整頓・清掃・洗浄・殺菌・躾・清潔)はもちろん、衛生管理、設備管理、工場の周辺管理など・・・というものがしっかりと成立し、習慣化されていることが前提となるのです。

そのため、この基礎部分のことを、前提条件プログラム、または一般的衛生管理(PRPやPP)と呼びます。

 当たり前のことを当たり前に行うことができて初めて、HACCPの運用が可能となりますので、まずは自社内のPRPの実践度合いを確認し、不足するところを補いながら、企業体力を備えて行かなければなりません。ここからがスタートになります。

 

 

 

 

6.ルーズHACCPから始める!

ところがスタートには準備が必要です。誰が実践するのか(1人ではなく様々な知恵と特性、責任をもつ複数人のチームを作ります)、誰が最高責任者になるのか、バックスタッフは誰で、実際に何をどこまで支援するのか、などを決めておかなければなりません。

やることはまだまだあります。系統的に情報を整理し、着実に物事を進めていくことは必要ですが、最も重要なことはマネジメントサイクル(PDCAサイクル)を実践することです。

Pとは計画立案、Dとは計画の実践、Cとは出来栄えの確認、Aとは修正案の再実行やレベルアップ策の実践、と考えて下さい。

要するに、言いっ放し、放ったらかし、計画倒れ、などではダメだということです。確実に決めたことを推進し、必要に応じて修正することや、新たな目標を設定していくことが重要なのです。

 このサイクルを身体に染み込ませることが優先されるため、初めの1周目は「貧弱なPRP」や「貧弱なHACCP」でも構わないと私は考えています。サイクルの1周目は貧弱でも、2週目、3週目とサイクルをぐんぐん廻していくたびに成長させ、強固に仕上げていけば良いのです。初めはルーズHACCP(出来栄えのキレイじゃないHACCP)で構いません。2週目、3週目で形を整えて行けばよいのです。そうしてHACCPの実践度合いと共に従業員の実力は成長していくのですから。もちろん、周回速度が遅くては意味がありません。1日1殺で問題や課題をクリアしていくことが前提条件です!

 結局はやはり、従業員の質を高めることが、成果物であるHACCPの実践度合いを決定付けるのです。最高管理者はそのためにも、質の高い教育を従業員に施すことが『 何よりも優先される 』ことを再確認して頂ければと思います。

 

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